杉本 一洋(すぎもと かずひろ) 「UNI FLOWERS」 代表
花を贈ったり、花を飾ったりする文化を広げていくお手伝いがしたい
岡山県岡山市に軸を置く「UNI FLOWERS」。
「フローリスト」「フラワーデザイナー」「フラワーアーティスト」の3つの顔を持つ杉本一洋さんが代表を務める、オーダー専門のショップを持たないお花屋さんです。
レッスン、ブライダル、ディスプレイ、イベント装飾など、幅広く手掛けられており、世界的なコンペティションや競技会に出場され、国内外においてご活躍されています。
UNI FLOWERSの代表を務める杉本一洋さんに、コンペティションや競技会の話から、市場に関する話、そして贈られた花束の扱いまで、花にまつわる多彩なお話をお伺いしました。
家業を継ぎ未経験で花の世界に
実家が元々お花屋さんで、僕は2代目なんです。同じ岡山市内に店舗を構えていて、いわゆる「町のお花屋さん」でしたが、ホテルウエディングが絶頂期だったこともあって、そちらのお引き立てもあるお店でした。
僕自身は体育会系でずっと陸上競技をやっていて、その流れで28歳までスポーツクラブのインストラクターをしていました。そしてその後、実家を継ぐことを決意して、インストラクターを辞めたんです。
当時は、今ほど情報が得やすい時代ではなかったので、実家の手伝いをしながら書籍を見て花の勉強しましたね。その時、ある1冊のフラワーデザインの本に出会い、そこに掲載されていた作品にすごく魅かれて、「どうしてもこの先生に習いたい!」と思い、2週間に1度、岡山からバスに乗って京都に通っていました。
ヨーロッパのフラワーデザインを日本に取り込み表現していたデザインが素敵で、すごく衝撃を受けたんです。そこで学ばせて頂いたことは、僕にとっての大きなターニングポイントとなりました。デザインだけではなく、さまざまな技術も学びました。
それまでデザインには触れたことがなかったのですが、実は子どもの頃からプラモデルを作るのが好きで、コンテストに参加したこともあるんですよ。今思うと、プラモデルでは色付けを行うので色合わせを考えたり、コンテストへ参加したりとか活動の素地になる経験を小さい頃からしていたんですね。
コンテストで花を飾る台を自作していますが、DIYに抵抗が無いのも小さい頃からモノ作りを楽しんでいたからかもしれません。
それと、何事にもセオリーやガイドラインはあるので、どういう風に花を配置すると綺麗かとか、花の顔の向きはこうするとか、デザインの上での基本ですね。未経験であってもこうしたものを学ぶことで、花を扱う仕事で活躍することができると思います。
世界的なコンペティションや競技会で受賞
恩師は、花のワールドカップの日本代表で世界で2位を獲得した方でした。先生のもとで学ぶ生徒さんは、競技会に出ている方が多かったですね。
今でこそSNSが普及していて、お花屋さんは自分で発信して色んなルートで、いわゆる「山の頂点」を目指すことができます。当時は競技会で勝って有名になるのが一番の近道だったんです。
競技会に興味を持ったのは、「優勝して仕事を増やしたい」という想いがあったからです。
町のお花屋さんって元々、利益が非常に少ない所を積み重ねていくんですね。緩やかに人口が減っていき、ウエディングのニーズも少なくなっていく中で、このままでは限界があるなと。
そこで、競技会に出て、まずは沢山の人に知ってもらいたいと考えました。
実際に、世界的なコンペティション「INTERNATIONAL FLORAL ART 2016-2017」において、アジア人最高位の「BLONZE LEAF 第3位」を獲得したのですが、その後、お花屋さんに向けてのデモンストレーションや講習会など、業界の人に向けたお仕事が増えました。
また、いろいろな賞を獲得したことで「企業案件」と呼ばれる、車のディーラーさんの仕事なども広告代理店の方からお声がけを頂けるようになりました。
僕が参加した「INTERNATIONAL FLORAL ART 2016-2017」は、競技会とは違いアーティスティックな方向のコンペティションです。花を使った自由な表現を1枚の写真におさめそれを審査します。そして、作品が1冊の本にまとめられます。構図とか1枚の絵としての完成度を求められるのです。
競技会では、4年に一度開催される、世界最高峰の競技会「インターフローラワールドカップ2019」の日本代表として出場し、TOP10入りを果たしました。
この競技会では、1時間前にお題と花材が発表され、瞬発力が試されます。世界観を時間をかけて作りこむことができる「INTERNATIONAL FLORAL ART」とは真逆ですね。
「フローリスト」「フラワーデザイナー」「フラワーアーティスト」という肩書があると思うのですが、僕の中にはこの3つが混在しています。花を扱う上で全部が共通しているんですよね。
お花屋さんは「フローリスト」ですし、フローラルアートでは「アーティスト」、競技会だと「フローリスト」や「デザイナー」の部分が出るんです。
多種多様な花を贈る相手に合わせて使うために
オーダーメイドのフラワーショップを開店
店名の「UNI FLOWERS」のuni(ユニ)というのは、ラテン語「unum(ウーヌム)」に由来している言葉で、「統一」や「単一の」という意味です。
この「uni」と「flowers」を合わせて、「花と花、人と人、想いと想いをつなぐ」という想いを込めて、世界中の人々に喜びと感動を、「唯一無二」の想いとして届けていきたいと名付けました。
お花屋さんで花を買うのって、店頭で並んでいる中から選びますよね。それって凄く汎用性が狭いんです。花はお花屋さんにある以外にも、もっと多種多様なものが流通している訳です。オーダーを事前に受けることで、「市場に今こういう花がありますよ」というご提案ができます。
贈る相手は多種多様で、用途も異なるのに、選べる花の種類が限られてしまうのに違和感があったんです。
こちらの好みやお花屋さんにある限られたもので作るのではなく、「贈る相手に合わせて作る」ことを考えた時、「前もって注文を受ければ可能性が広がる」と思いました。オーダーは誕生日や記念日のギフトだけではなくウエディングなど、さまざまな贈り物の引き合いがあります。
UNI FLOWERSでは、オーダーを電話やメールでお受けすることが多いです。その際、花を贈る方の好きな色や好みが分かるとより精度があがると思います。花束は、形状よりも色が先に目に入ってくるんですよね。だから、可愛いものが好きな大人の女性であれば、「くすんだピンクかな」とか。写真を貼付したり公式サイトやSNSの画像をあげて貰えると、イメージを掴みやすいです。
オーダーは1週間前までに
お客様のオーダに合わせて市場で注文をかけますが、注文をかけても1回で希望の花が揃わないことってあるんですよ。
市場は月・水・金と3回あるんですが、出荷量がV字になっていて、月・金曜日は出荷量が多くて、水曜日は出荷量が少ないんですよね。植物って毎日そんなに育つわけではないし、月曜日に切って出荷すると水曜日はやっぱり少なくなってしまうのは当然のことで。
1週間前までにオーダーをいただくことで、3回市場で注文をすることができるので、お客様の希望に添った花材を揃えることができます。
岡山は地方市場なので、主に大阪と姫路の方の市場で仕入れをしています。
今は現地に足を運ばなくても、ネットで注文できるんです。これは、元市場で働いていた仕入れ担当のスタッフのお陰ですね。薔薇が一番分かりやすいのですが、とても安いものから高いものまであって、同じ種類でも等級が異なります。安い薔薇だと綺麗に咲かずに終わってしまうこともあるんです。
そこで、仕入れ担当のスタッフの「この産地のモノは信頼できます」という情報を基に仕入れをします。市場で働いていたので、生産者の情報や信頼関係があるんです。高い花には高いなりの理由があるんですよね。良い花を仕入れ担当が選んでくれるので安心して任せています。
フローリストとしての心がけ
お客様に提供時には、アーティストの部分は出さないですね。アーティストというのは、「自分が提供したいもの」が主なんです。
フローリストは、「相手がどんなものを欲しがっているか意図をくんで提案をすることが大切」だと思っています。
お客様は、花のことを全て知っている訳ではないと思うので、「私ガーベラが好きなんです」と言われたら、額面通りに受け取るのではなく、「こんな花も如何ですか?」というご提案をするようにしています。
例えば、季節によってはアネモネをおすすめしたり、可愛いものが好きならラナンキュラスをおすすめしたり。
そこに、僕らの仕事のやりがいだったり使命があると思うんです。
僕の両親の先生のフローリストに「お客様にお金を頂いて『ありがとう』って言われる商売ってそんなに多くないよね。お花屋さんはその一つだと思う」ってお花屋さんを始めた頃にいわれたんです。その言葉は、今でもずっと僕の中にあります。
お花屋さんは大変なことも多いけれども、お客様に「ありがとう」といわれることで凄く幸せだし、一番のやりがいを感じるところだと思います。
UNI FLOWERSでは、トレンドに寄りすぎるのではなく、理解して踏まえた上でオリジナルのモノを出すようにしています。トレンドって、リズムネタに似てるって思っていて、廃れるとそのままになってしまいますよね。
例えば、ミモザは使うけどそれだけのリースは作らないとか、要素を取り入れつつオリジナリティを出しています。
沢山のお花屋さんがある中で、「UNI FLOWERS」として芯になる部分を大切にしていきたいです。
ギフトで貰う花束は分けて飾っても良い
花を贈られるってワクワクするし、嬉しいし、素敵な経験ですよね。
でも、貰った花が好みに合わないことも、残念ながらあると思うんです。そういう時には、一度、花束をバラして品種ごとに分けると飾りやすいです。
例えば、カスミソウ・ガーベラ・カーネーションといった種類に分けて、好きな場所に飾れば家が華やかになって良いですよね。また、花束に適したサイズの花瓶がないこともありますよね。花の種類ごとに分ければボリュームは少なくなるので、花瓶をわざわざ買わなくてもコップやお皿、そして空き瓶など、家にあるもので代用でききます。
スクールは、平日夜間開講
アトリエの隣が別会社の大家さんの事務所で、夜になったら駐車場を自由に使って良いんです。だからスクールは平日の夜間に開講しています。19時半~21時までなので、20時過ぎてくる方もいらっしゃいますね。仕事の後に来ていただけるように、フレキシブルな対応をしています。
生徒さんは、お花屋さんで働いていてスキルアップを目指す方と、趣味として花を楽しんでいる方が半分ずつ位です。
僕自身がコンペで出ているので技術面を磨きたいというニーズも多いですね。
レッスンは対面ですが、マスク着用でレッスン中は扉を開けて換気に気を使ってます。それと、センターにアクリル板を天井から釣っています。空気清浄機も導入して、エアコンも換気機能があるものに変えました。
何かあった時に何もしていないのは失礼にあたると思うので、生徒さんを迎え入れるにあたって、できる限りの努力はしておきたいと思っています。
フローリスト、そしてアーティストとして向かう先は
UNI FLOWERSとしては、オンラインストアをもっと充実させ、沢山の方に認知していただいて、たくさんの花をお届けしたいです。また、サブスクでは、初回に花器も一緒にお届けしているので、花瓶をお持ちでない方にも好評です。
僕個人としては、コロナになる前に「インターフローラワールドカップ」に出ましたが、その前からNYで個展をしたいと考えていたんですね。NYで「花の写真×花の個展」を開催したいと思っています。
花は生活に彩を添えてくれますよね。花を贈ったり、花を飾ったりする文化をもっと広げていくお手伝いがしたいんです。
ギフトを貰った人が、「花を貰って嬉しかったから誰かに贈ろう」ってプラスの連鎖が起きると良いなと思います。そのためには「素敵だな」って思ってもらえる花を提供して行くことが大切だと思います。
昔は花束を作っていれば売れる時代があったんです。個人のニーズに寄り添うことなく、好みに合わない花束を贈られる…、そんな時代が続きすぎたことで、花から離れてしまった方も多いかもしれません。
そこを僕らが地道な取り組みをして変えていきたいのです。
オンラインショップでは、1月から春に向けて岡山県産のスイートピーのブーケを販売する予定です。
岡山県は、スイートピーの全国出荷量第3位なんですよ。スイートピー50本のブーケは、花の可憐さだけではなく香りの破壊力を感じられます。凄く良い香りで幸せになれるので、興味をお持ちの方はぜひ!
Instagramには、今までに手掛けた沢山の作品が掲載されています。オーダーをお考えの方は参考になさってください。
杉本 一洋(すぎもと かずひろ)
「UNI FLOWERS」 代表
フローリストとして花に関する多彩な仕事に携わりながら、「フラワーデザイナー」「フラワーアーティスト」として国内外で活躍している。
・月刊フローリスト表紙アートワークを1年間担当。
・世界的コンペティション「INTERNATIONAL FLORAL ART2016-2017」でBLONZE LEAF第3位を獲得。
・「インターフローラワールドカップ2019」日本代表。